【Vol.115】「個性が強い(合わない)」と言われて落ち込んだとき ── ダンサーが“好き”と“基礎”の狭間で迷ったときに読む話

Bachata

【Vol.115】「個性が強い(合わない)」と言われて落ち込んだとき── ダンサーが“好き”と“基礎”の狭間で迷ったときに読む話

こんにちは、SHINJIです。レッスンで、最近こんなご相談をいただきました。

個性が強い(合わない)、と、言われました💦」
「踊り方が“独特ですね(笑)”と言われて、ちょっと落ち込んでしまいました…」

「違うジャンルが混ざってる感じがする、と言われて、何が正しいのか分からなくなってしまって…」

こちらは人にもよりますが、一定以上の経験値が入って来ると、出てきやすい傾向があるお悩みです。

・自分なりに気持ちよく踊っていたら、「それ違う」と間接的に言われる
・違うジャンルの要素が入っていることを、否定的にコメントされる
・「ルールから外れているのかな…」と不安になる

そんなとき、「じゃあ、全部消して“正解っぽい踊り方”に合わせたほうがいいのかな?」と揺れてしまう方も多いと思います。

今日は、20年以上ダンスの現場を見てきた立場から、「個性が強いと言われたときの整理の仕方」と「好きを貫くと必ず誰かに嫌われるけれど、それでいい理由」について、ゆるーくお話してみたいと思います。

「自己流ですね」と言われてしまうとき、2つのケースがある

まず最初に、「自己流」と言われるときの中身を、少し分けて考えてみます。
ざっくり分けると、こんな2パターンがあります。

  1. ケガや危険につながる“自己流”
  2. 単なる“好みの違い”としての“自己流”

1つ目は、たとえば…

  • 相手の腕や肩を無理な角度にひねってしまう
  • フロアで周りにぶつかりやすい動き方をしている
  • 基本リズムから外れすぎて、相手がフォローできない

こういう場合は、「安全・共通言語」のための注意喚起として受け取った方が良いと考えています。ここは、レッスンや基礎の中でしっかり直していく価値があります。

一方で2つ目は、

  • ちょっと他ジャンルっぽい雰囲気が混ざる
  • リズムの取り方が、まわりの人と少し異なってオリジナリティがある
  • スタイリングの質感が独特である

といった、「危険ではないけれど、好みが分かれるタイプの自己流」です。

今日焦点を当てたいのは、まさにこの2つ目のほうです。
「心が鳴る踊り方」がにじみ出た結果としての“自己流”です。

“違うジャンルが混ざってるよ”と言われたときに起こる心の揺れ

「違うジャンルが混ざってる感じがする」と言われたとき、多くの方は、

・やっぱり間違っているのかな…
・ちゃんとしたサルサ/バチャータ/ジャンルに合わせなきゃ
・自分の好きな動きを出さない方がいいのかも

と、“自分の好き”を引っ込めてしまいがちです。ただ、よく観察していると、

・その“混ざり方”が、その人の魅力になっているケース
・その“自己流”だからこそ、一緒に踊りたいと思われているケース

が、現場にはたくさんあります。よって、やるべきことは、

「自分の好きを追求した結果の自己流」なのか、
「基礎の理解不足で崩れてしまっている自己流」なのか

を、自分なりに見分けていくことです。自分なりのが得られれば、自分自身で納得感が得られます。むしろ、その独特の景色を見ることができる自分をもっと好きになって、何か周囲から言われても動じない、安定した自信もついていきます。

不都合な真実:好きを貫くと、必ず“誰かには嫌われる”

ここからが今日の本題です。好きな踊り方を続けていると、必ず誰かには(ダンススタイル的な意味で)嫌われます。ちょっときつい言い方に聞こえるかもしれませんが、これは構造上、ほぼ避けられません。

・「そのスタイル、ちょっと苦手なんです、ごめんなさい」
・「その質感、ちょっと自分とは合わないかも
・「もっと普通な踊り方が好き」

そう感じる人は、必ず一定数います。でも、裏側ではこうも起こっています。

・「その踊り方、めちゃくちゃ好きです
・「そのオリジナリティだからこそ、一緒に踊ってみたい」
・「他の人にはない感じがあって、すごく惹かれる

誰かにとって“苦手”なものは、別の誰かにとって“ど真ん中の好み”になります。

音楽の例:

ここで、ダンスから少し離れて「音楽」でイメージしてみてください。
たとえば、

王道Jポップのサビで、一番心がふるえる人
洋楽のR&BやEDMのビートに乗ると、「あ、これだ」と落ち着く人
Kポップの完成されたダンスとサウンドが、人生の栄養になっている人
アニソンが大好きで、イントロが鳴った瞬間にテンションが上がる人
ボカロの機械的な声や世界観が、たまらなく刺さる人

一方で、

「アニソンはアニメ見てないから、正直よく分からない…
「ボカロの声がどうしても苦手で…
「英語が分からないから洋楽はあまり聴かない
「Kポップは皆同じに見えて良さがピンと来ない

と感じる人も、当然たくさんいます。

同じ「音楽」なのに、ある人にとっては「人生を支えてくれた一曲」、別の人にとっては「良さがよく分からない曲」になる。さらには、ある人が「うるさい」と感じる曲が、別の人にとっては「心を守ってくれる音」だったりもします。

これがまさに、誰かにとって“苦手”なものが、別の誰かにとって“ど真ん中の好み”になる、という状態です。

ダンスのスタイルも、これとまったく同じ構造をしています。ある人には「動きが多くて、ちょっと落ち着かない」と映る踊り方が、 別の人には「エネルギーがあって大好き」に見えたりします。

一方、ある人には「感情が表に出すぎていて、照れくさく感じる」スタイルが、 別の人には「ここまで出してくれるからこそ自分も情緒的に踊れる」スタイルになったりします。

「このジャンルの音楽じゃなきゃダメ」という人がいないように、「このスタイルだけが絶対の正解」というダンスは本来ありません

これは、ダンスや音楽だけでなく、食べ物、映画、ファッション、すべて一緒です。

「誰(どのグループ)に嫌われてもいいか」を静かに決めておく

よって、ここで大事になってくるのが、「誰に嫌われてもいいか」(= ダンス的な意味における合わないスタイル) を、自分の中で静かに決めておくことです。たとえば、こんな整理の仕方があります。

  • 🟢 絶対に外さないライン:
    相手の安全・リスペクト・フロアマナー・音の大枠のリズム
  • 🟡 ある程度合わせるライン:
    レッスン中のルール、先生のコンセプト、イベントごとのカラー
  • 🔵 自由にしていいライン:
    自分のスタイル・質感・表情・アイソレの入れ方・他ジャンルのエッセンス

そして、🔵のゾーンについては、「ここを好きと言ってくれる人と、深くつながれればいい」と割り切ってしまうのも手かな、と、主観としては感じています。

誰とでも100%合うダンスを目指すほど、踊り方はどんどん“無難”になります。経験上、疲れてしまいやすくもなります。それよりも、

「この人と踊るとき、すごく自然でいられる」。

例え少数でも、そんな相手やスタイルと出会えれば、それで十分ではないでしょうか。何よりも、「自分自身が楽しくいられる」が得られます。

上記は、言い換えると、ダンス的な意味で、「誰に嫌われてもいいか(=自分に合わないスタイルやグループを諦める)」を静かに受け入れる勇気でもあります。

レッスンでは“共通言語”を、ソーシャルでは“自分の好き”を

現実的な落としどころとして、私がおすすめしているのは、「レッスン(パフォーマンス)」と「ソーシャル」で役割を分けるやり方です。

  • レッスン(パフォーマンス):
    → サルサ/バチャータの共通言語や共通表現(基礎・リズム・安全なリード&フォロー)をしっかり身につける場
  • ソーシャル・イベント:
    → 身につけた共通言語の上に、自分の“好き”を少しずつ足していく場
      ※ 心の鳴るオリジナリティを足しても良い場

レッスンやパフォーマンスで、先生の意図とまったく違うことを連発してしまうと、クラス全体としての学びがブレてしまうこともあります。だからこそ、レッスンではいったん「共通土台づくり」に集中しつつ、そのうえで、ソーシャルや曲との対話の中で、

・他ジャンルの要素を少し混ぜてみる
・自分なりの間(ま)やスタイリング、余韻を育てていく
・表情や視線など、言語化しづらい部分を遊ばせていく

そんなふうにして、自分だけの“自己流”を少しずつ育てていければ十分だと思っています。

それでも不安なときのチェックポイント3つ

最後に、「とはいえ、やっぱり不安…」というときに、自分でチェックできるポイントを3つ挙げておきます。

  1. 相手の身体は守れているか?
    → 肩・手首・腰を無理にねじっていないか。相手の表情はこわばっていないか。
  2. 大枠のリズムから、完全に脱線していないか?
    → 多少の遊びはあってOK。でも、相手がフォローできないほどズレていないか。
  3.  (「嫌われたくない」ではなく)「分かり合える人と共鳴する」になっているか?
    → すべての人に合わせにいって、疲れ切っていないか。

この3つを抑えられているなら、あとはもう、私たちの“好き”を前に出していって大丈夫だと個人的には感じています。

まとめ:“自己流”は、時に私たちの魅力そのものになる

最初のご相談に、もう一度戻ります。

「踊り方が“独特ですね”と言われて、ちょっと落ち込んでしまいました…」
「違うジャンルが混ざってる感じがする、と言われて、何が正しいのか分からなくなってしまって…」

これに対する、今の私の答えはこうです。

「安全と基礎が守れているなら、その“自己流”は、むしろあなたの魅力になるかもしれません。」

・好きを追求すれば、必ず“合わない人”も出てくる
・でも同時に、そのスタイルだから“一緒に踊りたい”という人も必ず現れる
・誰とでも合う必要はなくて、“分かり合える人と深く踊れれば十分”

そう思えるようになると、“自己流と言われる怖さ”から、“自分の好きに責任を持つ静かな覚悟”に、少しずつ変わっていきます。

私たちの“好き”から始まる踊り方が、どこかのフロアでまた静かに花開いていきますように。

またフロアで。
SHINJI

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