- 【Vol.119】ダンスが「消耗」に変わるとき──与える/受け取るのバランスと場の構造
【Vol.119】ダンスが「消耗」に変わるとき──与える/受け取るのバランスと場の構造
こんにちは、SHINJIです。先日、イベントのソーシャルタイムで、ご来場者からこんな雑談をいただきました。
これは真面目に同じレッスンを受講し続けている方ほど、中期的に感じやすい悩みだと感じます。今回、「レッスン(チーム)・イベントの型」と、「自分のフェーズ」という視点で、深掘りしていきたいと思います。
レッスンが「消耗」に変わるときの正体
レッスン(チーム)・イベントが、なぜ人を育てる場にも、消耗させる場にもなるのか。これは単純なレッスン内容の話だけでなく、「場(レッスン)の設計」と、「個人のフェーズ」双方が、複合的に関連するケースが多いと感じています。例えば、ダンスの世界では、こんな声をよく聞きます。
- 「始めは楽しかったけど、徐々につまらなくなった」
- 「断りたかったけど、チーム誘われて無理に参加し続けてしまった」
- 「人間関係に巻き込まれて、気持ちがすり減っていった」
こうした違和感は、多くの場合、「与える/受け取る」のバランスが崩れた場合に発生する結果です。
「与える/受け取る」のバランスが崩れると、人は消耗する
(私は心理カウンセラーの資格を持っていますが)
研究では、心理的な「需給バランス」が崩れると、気持ちが消耗しやすくなることが分かっています。例えばですが、
- 最初は、学び・楽しさ・刺激を「受け取っている」
- 自分のフェーズが変わり、次第に「得られるものが少なくなる」
- 逆に、手伝い・イベント参加・貢献が増えていく
- いつの間にか、時間的にも「与える側」に比重が寄っていく
- 一部の人と関係が悪くなり、心理的にも消耗する
上記は分かりやすい例ですが、結論として、受け取る量より消耗が上回ると受給バランスが崩れる、という構図が発生します。
「与える/受け取る(in/out)」の構成要素を分解してみる
こちらの需給バランスは、とても具体的な複数要素の合算で成り立っています。
要素① ダンスの学び(技術・理解・再現性)
- in: 技術・身体感覚・理解・「できるようになった」という実感
- out: 練習時間・集中力・反復・努力
健全な状態では、努力した分だけ、何かしらの学びが返ってきます。その上で、消耗が起きるのは、練習量は増えているのに、学びが増えていない状態が続いたときであり、結果として”out”が上回る状況が発生します。
要素② 人間関係(承認・尊重・対等性)
- in: 尊重されている感覚、対等さ、安心感、気の合う友人、仲間
- out: 気遣い、配慮、協調、空気を読む力、関係性の悪化、対立
人は、「自分はここで尊重されている」と感じられると、自然に関わり続けられます。逆に、我慢だけが増える、言いたいことが言えない等が発生すると、関係性そのものが消耗源になります。
③ 時間(自由度・裁量・回復)
- in: 自分のペース、余白、休む自由
- out: 移動時間、拘束時間、スケジュール調整
健全な場では、”参加しない選択が尊重される”/”欠席しても関係性が壊れない”という空間があります。一方、消耗する場では時間そのものが「差し出す前提」(無言のイベント強制参加等)になります。
④ 金銭(費用対価・納得感)
- in: 内容への納得感、価格に見合う価値
- out: レッスン代、イベント費、衣装・遠征費
問題は金額の大小ではなく、「納得して払える金額か(=等価交換性)」です。”学びに直結しているか”/”自分の目的に合った対価か”、ここがズレると、金銭は「投資」ではなく「消耗」に変わります。
⑤ 心理的安全性 / 自己効力感(居場所感・自分への肯定的な感覚)
- in: 自信、失敗できる安心感、否定されない空気、小さな成功の積み重ね
- out: 失敗の露出、試行錯誤、効力感が持てない挑戦、弱さを見せる空間
これはダンスを続ける基本燃料ですが、これが削られると、頑張っても意味がない気持ちが大きくなり、離れたい気持ちが強くなっていきます。
すべては「合算」で起きている
上記①~⑤は、人によってそれぞれ大きさが異なりますが、重要なのは、これらは単体ではなく、合算でバランスが崩れるという点です。
→ 人は、確実に消耗する
逆に以下の場合は、モチベーションが継続します。
→ 人は、続けられる
■ レッスン(チーム)・イベントに現れやすい3つの型 *中期
ここで本題である、本質的な「構造」を見てみます。ダンスの現場を長く見ていると、“中期視点”におけるレッスン(チーム)・イベントは、だいたい次の3つに分かれるとの印象です。
(「良い・悪い」の話はありません。構造と特性に関する話となります。)
② 燃焼特化型
③ バランス(Win-Win)型
ここから先は、なぜその型が生まれるのかを説明します。
※レッスン初期フェーズは、今回議論の本題ではないので省きます。
※なお、初期は学びの開始フェーズなので、また異なる視点があります。
① コミュニケーション報酬&消耗型──人間関係ミックス
この型は、人間関係が自然発生的な主報酬として存在することが特徴です。その上で、善意が“暗黙の義務”に変わることがあります。団体の構造として、「皆のボランティア参加型」が前提になっているケースもあります。
- 「知り合い・友達」が多く楽しい (人間関係の報酬 / 社交の場多数)
- 「イベント、もし時間あるなら来てくれるよね?(一定の強制力)」
- 「受付、手伝ってくれるよね?」(暗黙の了解)
- 「みんな参加しているから参加しないと・・・」(同調圧力)
最初は、好意です。また、多くのケースでこのパターンは、要素②である人間関係が「コミュニケーション報酬」になっているパターンが多いため、団体責任者との関係性や所属メンバーとの人間関係そのものが、個人の「受け取りたい主報酬」である場合は、とても相性が良い型です。
ただ、そうではない場合、好意が無言の「前提」になった瞬間、それは義務になります。良い悪い、という視点ではなく、構造上、そうなるように出来ている、という視点が、この①の型に関するポイントです。
② 燃焼特化型──「成果」と引き換えに、選別が起きる構造
次にご紹介する燃焼特化型は、世界大会・大舞台・明確なダンス視点のゴールを持つ場に多く見られます。短期間で大きな成果を出すには、
- 高い練習密度 / 厳しい指摘 / スピード感 / 自主練 等
といった要素も必要になりますが、これらが絶対無二の「正しさ」として扱われて、このルールに基づき運営が行われることが多いです。
この型は、確かに伸びる人も出ますので、短期間で”ダンスの成果”を出したい人に向いています。一方で、こういう現象も起きます。
- 優先順位が違う人が外れる、切り捨てられる
- 空気が「(その空間における)正しさ」寄りになる
- 参加できない=熱量不足と見なされる
これも意地悪ではなく、短期成果を最大化する設計そのものが、選別を生む構造です。
燃焼特化型は、花火のように強く、美しいです。その上で、太く短くという事象が発生することも多く、少なくない団体で、半年~1年ごとに多数のメンバーが入れ替わり、数年単位で見ると、ほぼほぼ総入れ替え、ということもざらに発生します。
※社内コンペが激しい団体の場合は、人間関係もぎすぎすしやすくなる、というのも特徴として一つあります。
③ バランス(Win-Win)型──「距離感」が選べる設計
バランス型は、これといって派手さはありませんが、特徴として、「距離感」が自分で選べるという特徴があります。
- 参加は選択 / 学びが主目的 / イベントは手段
- 教える側も消耗しない / 学ぶ側も無理をしない / 関係性が長く続く
この型が成立する条件として、
という条件があります。与える側がゼロにならない。受け取る側も依存しない。だから続きます。フェーズが合っていれば、極端な入れ替えも少なく、人によっては、10年~20年という単位で継続するパターンも、特に珍しくありません。
この型は、自分自身で判断し、関わり方や距離感を自ら選んでいきたい方向けとなります。一方で、消極的だと時間の質が深まらない、という特徴もあります(=強制力がないためです)。言い換えると、ダンスの学びも、人間関係も、欲しいものは自らが能動的に動く必要がある、という特徴があります。
【補足】受け取るもの(報酬)は「自分」で定義する
その上で、大切な補足ですが、受け取るもの(報酬)は、先生や団体が決めるものではなく、私たち自身が決めるもの、ということです。
- 今は挑戦したいのか
- 今は安定したいのか
- 今は学びたいのか
繰り返しとなりますが、構造自体に良い悪いはありません。人のフェーズも、その人の得たい報酬も、時の移り変わりで、常に変わっていきます。だから、場も距離感も、都度アップデートして選び直して大丈夫です。それは逃げではなく成熟です。
なお、重要なことは、成果そのものよりも、「自分で考えて選んだかどうか」、と、いうことだと感じています。
心理学でも、他人に決められた選択ほど、うまくいかなかった時に強い後悔を感じやすいことが知られていますが(興味があったら調べてくださいね)、一方で、時間をかけて悩み、自分で選んだ選択は、結果に関わらず、自己肯定感が高まることも知られています。
だからこそ、正解を求めてレッスンや団体に依存するより、構造を知って、能働的に納得できる選び方を自ら行う。20年現場を見て感じることではありますが、この部分が一番私たちにとって大切である、と、感じています。
まとめ
最初にいただいた雑談に、もう一度戻ります。
気づいたら、自分が本当に習いたかったものは学べていなかった。
でも、レッスンを変えたら、今は納得して続けられています」
この違いは、根性や相性だけの問題ではなく、「レッスン(チーム)・イベントの構造」と「自分のフェーズ」の組み合わせによって、中期的に自然と起きる事象です。
- どんな報酬(学び・人間関係・挑戦)を受け取りたいのか
- 今の自分は、どれくらい与えられるフェーズなのか
- その場の設計は、今の自分に合っているのか
これらが噛み合っている間は、多少大変でも人は続けられます。大切なのは、
「どの型が正しいか」ではなく、「今の自分に合っているか」を、自分の頭で考えること。
そしてなにより「自分で選択していくこと」。
それは結果に関わらず、自分を信頼できる成熟した大人の選択だと思います。
またフロアで。
SHINJI
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